学会報告まとめ

学会等に参加したら、以下の内容を含む出張報告を作成しSlack「#03_conference」にアップしてもらっています。このページはそのアーカイブです。新しい報告内容が上に来るようにします。
1) 会の概要、様子など
2) 印象に残った発表者とその内容
3) (発表した場合)自分の発表に対する質問とその回答
4) 会に参加した感想

研究室専用リンク集に戻る

CJKSRS2024@金沢

2024/9/19-20、出張者:にわ、https://confit.atlas.jp/guide/event/cjksrs2024/top?lang=en


(写真左:会場、写真右:懇親会中のセルフィー。左が韓国のEunsung Lee (ハーバード時代のポスドク仲間、ソウル国立大准教授)、右が京大の渡邊裕之先生(薬学の講師で若手研究者賞を受賞されていた)

放射性薬品に関する科学を議論する国際会議。正式名は「The 12th China-Japan-Korea Symposium on Radiopharmaceutical Science」で、日中韓で二年に一回開催するものです。参加者は160人程度。放射性核種を導入した分子の合成、それを利用した生命科学研究や診断、治療が主題。いろいろな核種が出てくるけど、流行っているのはAc-225(アクチニウム)やAt-211(アスタチン)が放出するα線でがん細胞を殺すがん治療法の開発。世界的にはAc-225が盛り上がっているが、その入手法が限定的で極めて高価、かつそれでも手に入りにくいので、日本全体としてAt-211を生産してみんなでその研究開発を進めているのが現状。Atはハロゲンの仲間なのでハロゲンとしての反応性を示すのが面白いけど、放射性ではないAtは存在しないため、基礎化学としてなかなか進まないのが難しいところ。でもAtを含む分子をDFT計算するものが出てくるなど、みんな頑張ってる領域。
次回は2026年に中国で開催の予定。なぜかにわさんは次回のDirector(各国から3名)になったので、おそらく参加します。

第70回有機金属化学討論会@大阪公立大中百舌鳥キャンパス

2024/9/9-11、出張者:にわ、https://kinka.or.jp/om/discussions/yuukin_070.html
有機金属化合物は「金属–炭素結合がある」分子。有機金属錯体の合成や物性、触媒応用がメイン。古来より一番厳しい討論会として有名。ここで議論できる人は十分生きていける。僕のホームグラウンド的な学会で知り合いだらけです。今年の参加者は400名程度。最近は光触媒や光反応に人が流れており減少気味だが、かなり議論はちゃんとしている。2000年ごろから「C–H activation」がずっと流行っているが、最近は「Skeletal Editing(分子編集)」が流行りつつあるほか、SI–Si、Si–B結合を作る反応も注目されている。硬派な学会で口頭発表はD2以上などの縛りがあったが、参加者数の漸減を受け、今年からM1以上で口頭発表可能になったほか、口頭発表に賞が発生した(もともとポスター賞はあった)。
次回は2025年9月17-19日、岡山大学で開催されます。多分梶山くんには発表してもらうと思います。なお、この分野の国際会議としてOMCOS(22nd IUPAC International Symposium on Organometallic Chemistry Direct Towards Organic Synthesis)がありますが、来年9/1-5に京都で開催されます。こちらも何人か参加してもらうと思います。

東京医科歯科大学・九州大学・工学院大学合同研究報告会

2024年2月19日、出張者:にわ・梶山・中村・吉森、参加人数:17人(学生発表者10人)
細谷研究室に関わりのある先生方のもとで研究する学生の発表会


印象に残った発表者とその内容
(梶山)B4宇都さん:[2,2]p-cyclophane(PCP)は2つのベンゼン環がいずれもパラ位で2つのエチレン鎖によって架橋された3次元的に共役した構造である。三次元的な構造のため蛍光分子などとしての活用が行われている。PCPをアライン化し、イソベンゾフランと結合させる手法はすでに見出されていたが、本研究ではPCPをあらかじめイソベンゾフラン化した後、アラインと反応させることを見出した。PCPへの置換基の導入は置換基を持つ芳香族化合物のアライン化よりも困難であり、本研究によりPCPを導入した機能性分子の合成の幅が広がったと言える。
(中村)山中さん (東京医科歯科大学院 1年):非天然α-アミノ酸の合成に役立つ、9-BBNと呼ばれる保護基に関する研究をしていた。従来は、非天然アミノ酸の合成には光学分割が必要であった。また、アミノ基やカルボキシ基の脱保護の際に、強酸が必須であったため、基質の適用範囲が狭いのが問題点であった。それに対し、保護基9-BBNは、強酸を使用しない条件で、アミノ基とカルボキシ基を同時に保護でき、有機溶媒中、温和な条件で脱保護できるため、短工程で様々な基質に適用できる。さらに、側鎖を変える際に保護基がキラルに影響を与えないのも特徴である。この保護基を利用することで、様々な側鎖の変換が可能になった。山中さんは9-BBNで保護したα-アミノ酸側鎖でのクリック反応の開発を行なっていた。9-BBN保護体同士の連結やニッケル触媒を使用した還元的クロスカップリングによりsp2-sp3炭素の結合を可能にした。しかし、銅触媒によるクロスカップリング反応では、tBu基は例外的にできるが、sp3炭素同士の連結ができないのが課題である。この研究は、非天然アミノ酸の合成だけでなく、蛍光分子の導入など様々な化合物の合成に寄与するため、とても意義ある研究である。
(吉森)江蔵大和さん(M1) 光による芳香族トリアゼンのアジド化:クリック反応などで生体内で利用できる芳香族アジドを今までは強酸を使って生成していたが官能基許容範囲が狭まるため問題だったがこの研究により光照射のみでアジド化することが可能になる。反応にトリメチルスチルアジドのルイス酸性が寄与している。プロトン性溶媒が適している。アジドのついたアラインを生成することもできる。異なる波長の光を用いて選択的に置換基を変換することも可能。光照射によるアジド化の開発により温和な条件下での保護脱保護のサイクルができた。
自分の発表に対する質問とその回答
(梶山)1, 溶媒の極性と反応機構の関係は?:極性の有無が直接本反応に影響するかどうかは現段階では判明しておらず、シアノ基が亜鉛錯体に配位することで臭素を引き抜けず反応阻害している可能性がある。
2, 亜鉛錯体の調製とは具体的に何をするのか?:市販の亜鉛錯体を試して、どのような亜鉛錯体が適するのか特徴を掴む。
3, リガンドの検討について、どういうホスフィンがいいとかわかっていることは?:ホスフィンの置換基3つのうち一方が平面的であるものが収率いい。また今のところ収率の良い上記の配位子は全て窒素原子を持つため使用しているパラジウムとの配位性も関与しているのかもしれない。
4, 亜鉛錯体抜きで合成したことはあるのか?:ルイス酸を用いる鈴木宮浦クロスカップリング反応にて、亜鉛錯体を入れなかった実験を一度したがもちろん反応は進行していなかった。
5, ヒューニッヒ塩基などを使ったらどうか?(収率がもとの実験より下がってるから影響はあるかも):ヒューニッヒ塩基;ジイソプロピルエチルアミンのことでルイス塩基性がほぼない。収率低下は亜鉛錯体の時間経過による分解の可能性がある。
6, 反応時間の検討は?:エステル由来シリエノでは6hで収率向上したため、おそらく収率上がるはずだが、亜鉛錯体の時間経過による分解で24h反応させた直近の実験では収率が下がっていた。再検討する予定。
7, シリエノの単離は?蒸留などでできるはず:検討します。
(中村)1. フルオロアルケン部位を有するユニットにおいて、先にフッ素側への置換基の導入を選んだのはなぜか。:ジフルオロアルケンのフッ素を有する根元の炭素の反応性が高く、また、トシルオキシ基を有するgem-ジフルオロアルケンよりもナフタレン環を有するgem-ジフルオロアルケンの方が収率よく合成できたから。
2.    ジフルオロアルケンへシアノ基を導入する反応の反応機構について:わからない。(適切な回答→)  ブレンステッド塩基であるDBUがトリメチルシリルシアニドのケイ素原子を攻撃し、ケイ素が反応性の高い超原子価状態をとり、これが引き金となってgem-ジフルオロアルケンとの求核付加反応が起こる。これにより、カルバニオン中間体が形成され、フッ化物アニオンのβ脱離を経て目的生成物が得られる。
3.    光反応の反応機構について:論文の引用を図示 → 質問してくださった先生(確か隅田くん:准教授)が詳しくお話ししてくれ、金属触媒や光触媒にはそれぞれ特徴や相性があり、それらを適切に変更することで収率を上げることができるかもしれないというお話を頂いた。
4.    ジフルオロアルケンにシアノ基を導入後、アシル基に変換し、還元的アミノ化をすることについて、窒素を導入した後に炭素に戻し、また窒素に変換するのはもったいないと感じないか?:シアノ基をアミノ基に変えることも考えたが、その場合最終的には、不斉制御を行う必要があるが、それは困難だと考え、このような合成法に至った。→質問してくださった先生から、トリフルオロボラートをビニル基に変換し、そこからの合成を考えるのも1つの策だというお話を頂いた。
(吉森)Q. 収率が向上していないのは原料が残っているからでは:原料はTLCではなくなっているが理由はわかっていない。→原料がどうなっているかの予想を一つくらい答えるべきだった。
Q. チオフェンを使っている理由:わからない。→NMRでもわかりやすいし、反応機構が予想しやすく目的生成物の構造式もわかりやすい。
Q. アリールラジカルとチオフェンのカップリングの収率は(チオフェンのトラップ剤としての効率は):論文の収率のところを見てなかった。→収率のとこを見ておいて50%ほどと答える。
Q. 光触媒のとこはエナジートランスファー型ではないのか:その言葉をしらない→調べて次から答えれるようにする
Q. 水中で酢酸を入れた時の㏗はどのくらい、緩衝溶媒との比較:はかっていない。測ってみます。→次から答えれるようにする
Q. 反応系の酸素の処理はどうしてる。水はどんな水を使ってる:濾過しただけの水を使ってる→グローブボックスがないのでできる限りの条件で実験してる
Q. パラ位にBrがついてる理由:NMRとかで見やすい→電子供与や求引を考えるべきらしい。シアノ基とかをつけるとアリールラジカルが安定する。
Q. ジアゾに対するカウンターアニオンを調整したらどうか:そうします。→AcO-とかによってジアゾの安定性が変わるから安定できるカウンターアニオンを検討するべき
Q. プロトン化されるのは異性化の前か後か、異性化の速さは変わるのか:わからない。→今後考えてみるべき
会に参加した感想
(梶山)はじめての発表会参加で、自分も発表する側であったことからこれまでの発表会以上に他の人の発表を集中して聴くことができました。また質問するためにとにかく中身を頭に入れることを意識していたのでいくつか質問することができました。ただ、わからないこと聞きたいことが頭にある状態でもそれを言語化して伝わりやすいよう質問することが難しく、一度発表者に汲み取ってもらうことがあったのでこれからは質問内容ももちろんですが伝わりやすさも含めてより質問の質を高めていきたいです。発表では準備の大切さを改めて感じました。内容をほとんど覚えていたことと先生と反応について何度も話していたことなどのおかげで質疑も完璧ではないものの自分の言葉で行えていたのではないかと思います。発表会後の交流含め、初めて研究室に関わる先輩の存在を知れたことで僕らのこれからの姿をイメージしやすくなり、今後も頑張っていこうと思いました。発表会と先輩と普段味わえない良い刺激になりました。
(中村)まだ研究を始めて間もない未熟な私に、これからの研究に活かせるような鋭い指摘と助言を頂き、とても貴重な経験だった。また、東京医科歯科大学、工学院大学の先輩方の研究発表を聞き、化学に対する知見を増やすことができた。普段、自分の研究と、研究室同期の研究内容しか話を聞かないので、今回、アラインやコバルト錯体といった全く知識のない化学の分野の研究を聞くことができて、化学の幅広さと奥深さを改めて感じる良い機会となった。自分の研究とはまた違った内容のお話でも、自分の研究につながったり活用したりできるかもしれないので、今回、このような機会を頂けて良かった。今回の会に参加したことでの大きな収穫は、発表者に対しての質疑の仕方や内容を、先生や先輩方を見て学ぶことができたことである。これは、今後の学会や講演会に参加した際に活用していきたい。また、発表後の交流会では普段関わることのない関東圏の先輩方との交流は新鮮で楽しかった。
(吉森)今回初めて研究発表をしてまだまだだなと感じました。もっと細かいところを詰めていくべきだなと思いました。ほかの人の発表を聞くにしても自分の発表の質問に答えるにしても化学の知識が足りないなと感じたし、これは前からずっと思っていたことなので勉強しようと思います。ほかの研究室の発表を聞けていい経験になりました。とくに江蔵君は研究内容も似ているところがあるし、来年から九州に来るということで話せてよかったです。宇都さんの立体的なベンゼンの研究は面白そうだなと思いました。あのような変な形をした化合物を使って研究することは少し興味があります。発表会後の飲み会では、研究の話だけではなくて東京がどんなところとか普段研究室はどんな感じかとか研究に関係のないこともたくさん知れてよかったです。

九州大学大学院薬学研究院

精密分子変換化学分野

〒812-8582 福岡県福岡市東区馬出3-1-1

Molecular Transformation Chemistry

Graduate School of Pharmaceutical Sciences
Kyushu University

3-1-1 Maidashi, Higashi-ku, Fukuoka 812-8582, Japan

Copyright © THE NIWA GROUP
トップへ戻るボタン